厚生労働大臣 坂口 力 殿
厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会委員長 黒川 清 殿
上記委員会委員 各位 殿
「脳死」臓器移植による人権侵害監視委員会・関西
「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会
「臓器の移植に関する法律(以下、臓器移植法)」施行以来、現在までに23例の脳死下での臓器摘出(24例の法的脳死判定)が行われている。私たちは市民の立場から、出来る限りの情報を収集し、ドナーとされた患者に対して救命治療は尽くされたのか、脳死判定は適切かつ正確に実施されたのか、患者・家族への人権侵害が起きていないかを監視し、検証してきた。
そして、特に重大な人権侵害が存在すると考えられる4例の事例、高知赤十字病院(1999年2月に実施)、宮城県古川市立病院(99年6月)、大阪府立千里救命救急センター(99年6月)、福岡徳州会病院(2000年7月)での脳死下臓器摘出事例について、各地の弁護士会人権擁護委員会に人権侵害の申し立てを行った。
昨年から今春にかけて、日本弁護士連合会は、大阪府立千里救命救急センター、高知赤十字病院、古川市立病院での各々の臓器摘出事例について人権侵害の事実を認め、各医療機関に対して勧告を発している。
上記の三医療機関すべてに対して、「無呼吸テストは、治療手段ではなく、他の脳死確認のテストと比べて身体への侵襲程度がはるかに大きく、不整脈等を生じさせる危険を有するほか低酸素血症をきたす危険性も存するものである」としたうえで、その無呼吸テストを、「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(以下、ガイドライン)」や「臓器の移植に関する法律施行規則(以下、規則)」を無視して行ったことで、患者の身体への侵襲行為をなして、その人権を侵害したと明言している。加えて、古川市立病院に対しては、脳幹反射(前庭反射の消失)検査を正確に実施しなかったことで、「患者の生命徴候を見落とした危険を無視することはできず、しかもそれらは患者の真意に反し自己決定権を侵害したものであり、人権侵害である」と断じている。
勧告書にも述べているように、ガイドラインや規則で定めた脳死判定手続きを厳格に遵守することは、脳死が疑われる患者の生命に対する権利、十分な救命・蘇生医療を受ける権利、最善の医療を受けられる権利を守り、早すぎる脳死、作られた脳死を防止するために、最低限、必要な条件である。が、これさえ無視し、ないがしろにしている移植医療の実態が明らかになった。
その上、これら人権侵害の有無を調査・検証し、公正さを保障すべき国の検証機関(第4例目までは公衆衛生審議会臓器移植専門委員会、5例目以降は「脳死下での臓器提供事例に係わる検証会議」)は、上記事例について人権侵害の事実を見逃し、「総合的に判断して問題はない」としているのである。全ての実施例で、「臓器提供者及びご家族のプライバシー保護」を名目にあらゆる情報が隠蔽され、まさに、密室での臓器摘出・移植の様相を呈している。これら検証機関だけが移植をめぐる事実関係や医療データが開示されている唯一の場であるにもかかわらずだ。
国は、脳死・臓器移植の実施を即時凍結し、これまで行われた全ての脳死・臓器移植の事例について、再度、検証作業を行い、日本弁護士会の指摘した点と同様の、あるいはそれ以外の人権侵害の事実がないかどうかを市民の前に明らかにすべきである。これら真摯な検証と情報公開なしに、さらなる脳死下での臓器摘出が続行されるならば、救急医療や移植医療の場で、新たな人権侵害が引き起こされるのは目に見えている。
まして、現在取り沙汰されているような脳死・臓器移植の件数を増やすことを目的とした法律改定等への動き、すなわち、「脳死」を一律に「人の死」と定義して、本人の生前の拒否がなければ家族の承諾のみで臓器提供を可能にしようとしたり、現行の枠組みはそのままで、ドナーが15才未満の子どもの場合のみ親権者の同意だけで臓器提供できるようにしようとの方向、あるいは、脳死下での臓器提供施設の拡大をはかろうとの動きは、断じて許すことはできない。
私たちは、以下の点を強く要望する。
- 国は、臓器移植法施行以後の臓器摘出事例について、人権侵害の事実が指摘されたことを重く受け止め、脳死・移植の実施を即刻凍結し、これまでの全ての事例について、再度、検証作業を行い、その結果を広く市民に開示すること
- 現在の検証会議は、その責任をはたしておらず、むしろ、全ての情報の隠蔽を正当化するためにのみ存在しているといっても過言ではない。現在の検証会議を解散し、再度、審議の透明性を確保しつつ、検証を行うこと
- 現在、脳死下での摘出事例の検証結果については、第9例目までしか報告書が公表されていない。検証済みの事例について、早急に報告書を公表すること
- 脳死・臓器移植の件数を増やすことのみを目的とした法改定は行わないこと
以上